ある年から2回目の2月⑤

 吾輩が「ニンゲン」どもから離れて過ごしていると、「ニイチャン」に捕まった。そして「ニンゲン」どもの部屋に連れていかれた。

 

 

 寒いところにいるなと言う。そして「コタツ」に入れてくれた。やはり「コタツ」は良い物だな。身体を芯から暖めて「ひぃたぁ」の風に当たった。これもまた心地良い。

 

 その後「ニイチャン」や「カァチャン」が吾輩の身体を撫でてきた。普段はうっとうしいだけなのだが、今日はなぜかゴロゴロのどが鳴った。ゴロゴロなど軟弱者のすることだと思う。だがゴロゴロが止まらない。「ニイチャン」や「カァチャン」が驚いていたが、吾輩も驚いている。

 

 「ニンゲン」どものねぐらで暮らす奴らは雨風をしのいで食いっぱぐれが無いだけのことだと思っていた。だが、どうやらそれだけでは無いようだな。

 

 吾輩ののどはいつまでもゴロゴロと続けていた。

ある年から2回目の2月④

 吾輩が気楽に寝そべっていると、いつぞやの若いのがいた。

 

「何の用だ」

 

 

「えぇ・・・その・・・」

 

 

「なんだ」

 

 

「子供の時のお礼を言い足りていないと思って」

 

 

またか。この若いのは以前吾輩が助けたことがあるらしい。覚えてはいないが。「からす」や「へび」をぶちのめして、助けたことがあるのだそうだ。

 

 

「礼など要らん。吾輩はすべき事をしたまでだ。だが、なぜ今になってここに来た。」

 

 

「よくわからないのですが、今逃すと、もうその機会は無いと思って・・・」

 

 

「どういうことだ」

 

 

「それが・・・よくわからないんです」

 

 

「ともあれ、礼など要らん。あの時の事は覚えてもおらんが、礼を欲しくてやったのではない。

 

「そうですか。僕はいつかあなたのようになりたいと思います」

 

 

「それはお前の自由だ。そうなりたいと思えば思うがいい」

 

 

「ありがとうございます。しばらくここにいて良いですか。邪魔しませんから」

 

 

「勝手にしろ」

 

 

その後吾輩がひと眠りして目が覚めた時には、若いのはいなくなっていた。

ある年から2回目の2月③

 あれだけ「コタツ」が好きだったのに、そこに行きたくなくなった。

 

 「ニンゲン」どもと過ごしたくもなくなった。

 

 「コタツ」も「ニンゲン」どもも嫌いになったわけでは無い。「ニンゲン」どもは何も気にしたこともない。いてもいなくても変わらない。

 

 だが、吾輩だけで過ごしたい。吾輩だけにしてほしい。吾輩は隠れた。

 

 「カァチャン」に見つかり、「トオチャン」に寒いところにいるなと𠮟られた。「ニイチャン」は心配した。だが、吾輩は「ニンゲン」どものいる所にいたくなくなった。

 

 吾輩は吾輩だけで過ごしたい。そんな時

 

ある年から2回目の2月②

 どうも調子が良くない。こんな日が続いている。長く生きてきたが、このようなことはなかった。

 

 今日は腹が痛い。寝れば治ると思っていたが、治らない。さらに痛くなってきている気がする。

 

 やはり。年なのか。まだ「ニンゲン」どものねぐらで過ごせているから生き延びている。そうでなければ、くたばっていることだろう。役に立たないと思っていた「ニンゲン」どもだが、少しは役に立っているのかもしれん。

 

 まだ、食欲は残っている。食う事ができれば生き延びる。それができなくなったら・・・それまでだろう。

ある年から2回目の2月②

 どうも調子が良くない。こんな日が続いている。長く生きてきたが、このようなことはなかった。

 

 今日は腹が痛い。寝れば治ると思っていたが、治らない。さらに痛くなってきている気がする。

 

 やはり。年なのか。まだ「ニンゲン」どものねぐらで過ごせているから生き延びている。そうでなければ、くたばっていることだろう。役に立たないと思っていた「ニンゲン」どもだが、少しは役に立っているのかもしれん。

 

 まだ、食欲は残っている。食う事ができれば生き延びる。それができなくなったら・・・それまでだろう。

ある年から2回目の2月①

 少し調子が悪い。やはり年なのか・・・

 

 

 この「ユキ」の中を動き回る若い奴らを見ていると、うらやましくもある。ただ、食う事には問題が無い。食えなくなれば吾輩は終わりだろう。

 

 

 しばらくは、寒い日が続く。だが、「ニンゲン」どものねぐらにいることで、ある程度の寒さはしのげている。「コタツ」があれば、快適に眠れる。

 

 

 

 だが、今日は久しぶりに頭にきた。「コタツ」の中にいるのに真っ暗になっている。そして、寒くなってきた。さては「カァチャン」が何かしたのではないか。吾輩は「カァチャン」に文句を言いに行った。

 

 すると「カァチャン」が何かをさわると、また「コタツ」が暖かくなった。

 

 それでいい。「カァチャン」は吾輩のいう事を聞いておればよいのだ。このねぐらにいる召使の一つだからな。

 

 

ある年から2回目の1月④

 ここ最近、動きが悪くなっている気がする。「ネズミノオモチャ」も面白いとは思えなくなった。

 

 とにかくだるい。そして、寒い。もともと何もしたくないが、なおさら動きたくない。

 

 

 安心して眠ることのできるこのねぐらは吾輩にとっては天国だ。そして、食うにも困らない。

 

 若い時は、「ニンゲン」どものねぐらで暮らしている奴らはつまらないだろうと思っていたが、ここ最近は快適なことこの上ない。このねぐらに入る前の殺気立った緊張感のある日々とは違うが、こうした日々も悪くない。

 

 

 だが、戦いのないことで腑抜けになっておるのだろう。このねぐらの「ニンゲン」どもは吾輩を襲うことはない。だから、警戒する必要もない。だからこそ、身体も心もゆるんでくるのかもしれない。

 

 とはいえ、今更若者と同じことはできない。見ての通りの老いぼれだ。老いぼれには老いぼれの生き方もあるだろう。

 

 

 老いぼれは無理せずに眠るとしよう。