ある年から2回目の2月 ―「若者」からー
あの方が死んだ。
話しかけても、めんどくさそうに顔を上げてくれないんだ。
そこにあるのは、あの方の形をしたもの。もう動かない。
僕にはわかっていたんだ。あの方がもう長くは無いという事を。多分、あの方も解っていたと思う。だから、少しでもそばにいたかった。だけど、あの方はそういうのを嫌う。
色々なことを教わった気がする。「何が」と聞かれても困るけれど、とにかく今があるのは、あの方のおかげ。
気が付いたら、あの方は「ニンゲン」と暮らしていた。あんなに「ニンゲン」が嫌いだったのに、何があったのだろう。聞きたかった。聞けなかった。
あの方の周りにいる「ニンゲン」の悲しんでいるのを見ていると、それなりの扱いを受けていたのかもしれない。だから、あの方は外に出なかったのだろう。
「ニンゲン」が「ソウシキ」だとか「ハカ」だとか、よく解らないことを言っている。
僕はしばらく、その風景を眺めていた。死んでしまった、あの方を見つめ続けることが、せめてもの恩返しになると思ったから。