ある年の1月①

 吾輩はネコであるらしい。

 

 「ニンゲン」どもが吾輩を見ると必ず「あっ。ネコだ」と声を出す。だから吾輩はネコなのだろう。

 

 だが、ナマエはまだない。「ニンゲン」と暮らしているネコはナマエというものがある。「レオ」だとか「ソラ」というナマエが付いた奴らもいたが、吾輩は「ネコ」だとか「ノラ」と呼ばれている。吾輩たちが二本足の大きな奴らをまとめて「ニンゲン」というように、「ニンゲン」たちも吾輩たちの事をまとめて「ネコ」と呼んでいるようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 とんでもない「ユキ」だ。朝になり、明るくなって驚いた。あまりにも寒いので眠るに眠れない夜だった。冷えてくるとこの辺りは「ユキ」だらけになる。しかし、この「ユキ」は今までに見たことのない量だ。何も見えない。いつもは多くても歩くことはできた。だが、この「ユキ」では外には出られない。昼になれば少しは減るだろう。少しは冷えも和らいだからひと眠りするとしよう。

 

 

 

 

 

 

 甘かった。「ユキ」は減らない。いや、増えている。腹が減った。昨日の夜から何も食べていない。

 

 

 

 

 声が聞こえる。吾輩を心配しているのか探しているようだ。いつも食べ物をくれる「ニンゲン」たちの声だ。それだけじゃない。この前、吾輩がケンカして怪我した時に「ビョウイン」まで運んで手当してくれたチョロい「ニンゲン」の声だ。あの「ニンゲン」のところまで行けば、空腹は満たせる。だが、そこまでたどり着けるかは解らない。気づかないうちに「ミゾ」に落ちれば最後だ。「クルマ」というものもある。「クルマ」にやられた仲間をどれだけ見てきたことか.。しかし、ここに留まっていては飢え死にしかない。食べないと体も冷えて凍え死んでしまう。

 

 

 何も見えないが、あの「ニンゲン」のところへ行くしかないのだ。それしかない。覚悟を決めて吾輩は飛び出した。