ある年の6月③

 「死んだのかと思っていたぜ。お前生きていたのか。」

 

 ねぐらで寝ていると、聞き覚えのある声で起こされた。

 

 見ると、奴が吾輩を見下ろしていた。奴とは若いころから縄張り争いで数多く戦ってきた。お互いに年を取り、丸くなったからか縄張り争いはくだらないものに思えてきた。ここ最近は顔を合わせても戦いにはならず、お互いのことを話すような間柄になっていたところだった。

 「しばらく、お前を見なかった。死んだという噂が立ったが、どこかでお前の匂いや声がすると聞いてな。このあたりだと聞いて様子を見に来たのだ。お前、いつからここにいたんだ。」

 

 

 「ああ、あの白いものがとんでもなく増えたときにニンゲンどもがここにいろと言うからな」

 

 「あの時はひどかった。寒さでいくつかは死んだ。俺も危なかった。」

 

 「吾輩もやっとのことで生き延びた。」

 

 「居心地はどうだ。」

 

 

 「悪くはない。良くもないがな。食い物には困らん。」

 

 

 「そうか。ニンゲンどもにかくまわれている奴らを心の底から軽蔑していたお前がな。不思議なものだ。」

 

 「ああ。我が輩も年を取ったのかもしれん。」

 

 

 「お互いにな。また会おう。」

 

 そう言い残して、奴は去っていった。奴もだいぶ弱っていた。我が輩は運がよかったのかもしれん。