ある年の7月④

 若い奴が去ってから吾輩は考えた。

 

 吾輩も若かった時小さかった時は誰かに助けてもらっていた。「へび」やら「からす」やらから守ってくれていたのを思い出す。

 

 あの若い奴はそれを覚えていたが、吾輩は忘れていた。だが、それが良いのだと思う。恩を着せた者は忘れてしまい、恩を着たものは忘れない。これが逆になるとみっともない。そもそも、吾輩は助けたという気持ちは無かったと思う。目の前に起こっていたことに、思い付きでやっただけなのだろう。記憶にとどめようなんてことは考えなかった。

 

 だが、そのようにして世の中がつながっていくのだ。あの若いのもそのうち、奴より若く小さなものに同じように接していくだろう。いつかはな。

 

 若い奴よ。老いぼれのたわごとだ。だが、よく聞け。助けるだとか良いことをするだとか考えるなよ。目の前に起こったことに精一杯生きろ。それだけで良いのだ。良く思われたいなどくだらないこと考えるなよ。周りに仲間がいなくとも、自分の道を進むのだぞ。お前なら、まっすぐ道を突き進むだけで良い。少しは見所のありそうな奴だからな。

 

 

 眠くなってきた。ひと眠りするか。