ある年の8月②

 ミンミンミンミンさわがしい。

 

 「せみ」とかいう奴だ。若い時はよく食った。「ニンゲン」どもは、「せみ」を食う吾輩を見て気味悪がっていた。だが「ニンゲン」どもよ。お前らの知らない世界に住む別の「ニンゲン」どもは吾輩のように「せみ」を食らうのだぞ。

 

 このミンミンミンミンと聞こえると血が騒いだものだ。貴重な食い物であったからな。

 

 時がたち、今では何とも思わなくなった。若い時はあんなに喜んで食っていたのだが、もう食いたいとも思わない。

 

 

 そういえば、ニィチャンが「若い時ははんばぁがァやぽてとちっぷをよく食べたが、もう食いたいとは思わない。あれはじやんくふぅどだから」「ふあうすろとふぅども行かなくなった」と言っていた。

 

 そうか、「せみ」は「じやんくふぅど」や「ふあうすとふぅど」のようなものなのだな。

 

 「ニンゲン」どもも吾輩のように若い時しか食いたくないものがあるようだな。「ふあうすとふぅど」は手軽にすぐ食えるというものという意味らしい。

 

 確かにそうだな。「せみ」はすぐに食える。「ねずみ」「さかな」は厄介だ。食えない所と食えるところを分けないといけないからな。

 

 ともあれだ。「せみ」よ。良かったな。吾輩が若ければ、お前はとっくに食われているぞ。