ある年の9月④
吾輩は目が覚めた。
やはり、吾輩は生きている。奴は眠りづづけたままであったが吾輩は目覚める。
奴が見ることができない今を吾輩は眺めている。何も変わらない。「ニンゲン」どもや他の奴ら、生えている木や草。いつもの風景だ。だが、「いつも」は少しずつ変わる。気づかれないように変わるのもあれば、すぐにわかる変わり方もある。草は少しずつ伸びて枯れていく。他の奴らも大きくなって衰えていく。
奴は「今」を見ることはない。「あの時」を見たままで終わっている。そう。こうした変化もある。死ぬことで世の中の何かが変わる。生まれることでも何かが変わる。
奴が死んだことで吾輩にも何かが変わった。吾輩も老いぼれた。死ぬという事が近づいてきている。
眠くなってきた。難しいことを考えると疲れる。
眠る。起きる。眠る。起きる。
どんな奴でも、それは変わらない。
とにかく、ひと眠りだ。